山崎達也展 ー分身ー

山崎達也展 ー分身ー
2024年3月9日〜16日
AM11:00時~PM18:00
最終日17:00
山崎達也

【分身】
人間は二つの目をもっているので、同時に二つの視点でものを見ています。それによって私たちは立体感を感じています。左右の目は二つで一つの機能を持っているんですね。
今から[二つ目の機能性をほぐす体操]をしましょう。両目に写る像が微妙にズレていることを実感できると思います。
ウィンクの要領で左右の目を交互に瞑ります。パチクリパチクリ…と。どうでしょう、微妙にズレた二つの風景を交互に見ることができますよね。次に眉間に人差し指を近づけながらやってみましょう。人差し指が反復横跳びするように動いてみえると思います。僕だけかもしれませんが、これをやっていると自分の方が高速反復横跳びしてるようにも錯覚してきます。フィクションの世界で忍者が高速で動いて影分身の術を使いますよね。その時に忍者が見ている景色ってこんな感じなのかもと思ったりします。
もう一つ、利き目についても考えてみましょう。まず、両目を開いてテーブルの上のリンゴをみつめます。ただし そのリンゴが視界の真ん中に来るように心がけます。その状態のまま左目を閉じても視界に変化はありませんでした。しかし右目を閉じると林檎は右側に寄ってしまう。「林檎が真ん中にある風景」は右目からの見え方だったということです。これは[利き目が右]である僕の場合の話で、[利き目が左]の人は逆になります。
ところで、利き目じゃない方の目は何を見ていたのでしょうか。両目で仲良く「真ん中のリンゴ」を見ていたつもりだったのに、左目はちょっと違う風に見ていたということが発覚したわけです。人間関係で例えたら、ここらでちょっとした喧嘩が始まりそうな予感がします。いやいや、人は助け合いですよね。足りないところは互いで補い合うというものです。両目も実はそういう関係なんですよね。
つまり、「見える」と「見えない」は相補関係にあるという話です。両目で見るということは、微妙にズレた二つのイメージを部分的に重ねながら、重なるところと重ならない部分を同時に見ることだと言えるでしょう。机の上のリンゴを見ていると、その奥に広がる部屋の風景などは見えにくい。両目の焦点はリンゴにあるから、その前後にあるものは見えにくいのです。しかしこの見えにくさがまた、リンゴの識別を一層際立たせています。
机上のリンゴを見つめていると、玄関から音がしました。家族の誰かが帰ってきたようです。誰もいない部屋でリンゴを見つめている姿なんてちょっと心配されるかもと思いました。リンゴ鑑賞場になっていた空間が一気に日常風景に引き戻されていきます。さっきまで見えていなかった台所の洗い物やさっき取り込んだ洗濯物が目に写ってきました。表面がぬるくなってしまったリンゴは冷蔵庫に戻されて、僕もさっさと日常の風景の中へと溶け込んでいきました。
リビングの扉を開けると、あたたかい空気といつもの風景。