版の表現展

・長井信夫 ・アーカイバルピグメントプリント
・田口路弦 ・アクアチント
・畑山綾太郎 ・エングレーヴィング
会期10月1日〜10月9日

「版画」について
「版画」は「版」を細工し、別の素材に画像を転写して表現する絵画を言います。
版画の技術・様式は「印刷」と同じですが、あきらかに印刷とは区別しています。
しかし、「版画」は日本においてのみ通用する名称で、世界ではあくまでも「PRINT」
つまり「印刷」と呼ばれています。


1300~1400年代 版画の始まり
ヨーロッパでは1300年代後半からキリスト教の教義を広める目的で、聖地巡礼の記念や護符などを木版で作っていました。現存の一番古い版木は1370年頃のプロタの版木と呼ばれるもので、フランス中東部のMACONで階段の板として用いられているものが発見されました。初期の木版画は1370年から80年頃にフランスのDijon(ディジョン)で始まったのではないかと伝えられています。


1400~1500年代 木版画から銅版画へ
1400年半ば頃から銅版での凹版画が登場し、1500年頃には技術的にも優れたものが多く作られるようになり、木版画から銅版画の時代へと移ってゆきます。普通の木版画は1500年代末頃から衰退してゆくことになります。理由は銅版画の方が精緻で克明な表現が可能だった事と、線描中心のデッサンを木版画にする場合の労力の大変さからくるのではないかと考えられています。


1500年代~ エングレーヴィング
エングレーヴィングは、金属版を直に印刻し、描画をする直接凹版技法(直刻法)のひとつで、ビュランと呼ばれる道具を使用し、直接版面に線(イメージ)を刻み込みます。彫刻凹版とも呼ばれることもあるこの技法は、印刷するとシャープな線が得られるのが特徴で冷たくクリアな印象になります。また、描線の始まりと終わりが鋭く細くなり、線の中になるほど太くなります。
現在では銅板が版材として多く用いられています。また特殊なビュランを用いたスティップル・エングレーヴィングという点描による作品を作る技法も開発されました。
デューラーなどの作品にも見られるような、ハッチングによって細かい描写を行う場合には、熟練の技術を必要とします。そして印刷された画像は偽造が難しいために、現在では紙幣や証券の印刷などにこの技術が生かされています。


1600年代~ エッチングの隆盛
1600年代になると、彫刻凹版は次第に複製版画の傾向が強くなり、この頃盛んに行われたエッチング(腐刻凹版)と併用されてゆきました。
エッチングは、まず版面に防蝕剤となるグランドを塗布します。グランドは液体のハードグランドを用いるのが良いでしょう。グランドを版面に少し多めに垂らし、版をゆっくりと傾けることで版全面に行き渡らせます(グランドの流し引き)。版面に残っている余計なグランドは元の容器に戻しましょう。グランドが乾いたら版の裏から軽くあぶります。こうすることでグランドの版への固着、そして耐久性を増します。
描画はニードルを使って行います。グランドを引っ掻くように描画することで金属面を露出させます。描画を終えたら第二塩化鉄水溶液や硝酸水溶液などの腐蝕液に浸し腐蝕させます。これにより露出していた部分が凹部となり製版されます。腐蝕(描画)の具合を見ながら一連の作業を繰り返し行って作品を仕上げていきましょう。このようにニードルを使用して線描を行い、腐蝕する技法をラインエッチングと呼ぶ場合もあります。この他にも、ポスターカラーやアラビアゴムをマスキング液のように用いるリフトグランドエッチング、ハードグランドに油脂分を混ぜ、完全に乾かないようにしたグランドに物を押し付け、その形象を写し取って腐蝕を行うソフトグランドエッチングなどのバリエーションがあります。


1624年 エッチング、メゾチントの登場
メゾチントは1624年にオランダのルートヴィッヒ・フォン・ジーゲンが発明して以来、油彩画の複製や書物の挿絵などに使用されてきました。近代に至るまで、美術作品を作る技法としてはあまり活用されていませんでしたが、長谷川潔や浜口陽三などの功績もあり、今では数多くの美術作品がつくられています。
メゾチントは描画の前に、ロッカー(ベルソー)と呼ばれる道具を使い製版します。ロッカーは、版面に当て左右に揺らして使用します。この作業を縦、横、斜め(対角線2方向)の4方向から、均一な無数のまくれができるまで繰り返し行います。これを「目立て」と言います。こうして版面は、サンドペーパーのような状態になります。ロッカーで作り出したまくれにインクが絡まることで黒く印刷する事ができ、スクレーパーやバニッシャーを使用して、まくれを削り取り深さを加減することで、灰色や白色などの階調を作りだします。また、ロッカーの代用として、カッターやルーレット、ハーフトーンコームなどの道具を使って目立てを行うこともできます。
メゾチントは、プレス機の圧によりの版面のまくれがつぶれてしまうために耐刷性に乏しく、印刷できる枚数が限られています。しかし、版にクロームメッキ処理を施すことで、刷れる枚数を増やすことが可能です。


1700年~ エッチング、アクアチントの登場
アクアチントは、凹版画において、金属版を腐蝕させて製版する腐蝕技法(間接凹版技法)のひとつで、版面に松脂やアスファルトの粉末を撒いて加熱定着、腐蝕させることで多孔質な版面を作り出します。こうしてできた版は、エッチングでできる線の表現とは違い、面で水彩画のような濃淡の調子を表現することができます。


1800年~ リトグラフの登場
リトグラフは、石版石(石灰岩)や金属板(アルミ板・ジンク板)の平らな版面(平版)を、油性インクを引き付ける部分と水分を保つ部分(インクを弾く部分)に化学的処理で分離し、水と油の反発作用を利用して専用のプレス機により刷る版画です。版面に直接描いた絵を、ほぼそのまま紙に刷り取れるのが特徴です。
元来、リトグラフの版にはドイツのゾルンホーフェン(Solnhofen)石切場で採掘される石灰石を使用していましたが、日本では版画の大型化や物理的な要因に伴って金属板(アルミ板)を用いることが多くなっています。また、化学処理された木板を使い、専用の用具で描画する木版リトグラフと呼ばれるものや、シリコンで非描画部分をマスキングして製版を行うことで水を使用しないウォーターレスリトグラフなどの新たな材料や方法も開発されています。


1900年~ シルクスクリーンの登場
1907年イギリスのサミュエル・シモンが初めてシルクスクリーン印刷の特許を取得
シルクスクリーンは、版画の孔版形式での代表的な版種のひとつです。木枠や金属枠にテトロンなど肌理の細かい繊維を張り、版として用います。製版では、繊維に乳剤などを用いて表現したい図像を残して地の部分を目止めします。刷りでは、図となる孔部からインクを押し出して、紙などの支持体に印刷するのがシルクスクリーンのシステムです。
シルクスクリーンは、正式名称をシルクスクリーン・プロセス・プリンティング(silkscreen process printing:英)と言い、スクリーンプロセスなどと呼ばれることもあります。また、特に美術作品としての版画を指してセリグラフィ(serigraphie:仏)と呼ぶこともあります。


1980年~ アーカイバルピグメントプリントの登場
デジタル版画、作家が作成した画像データを高性能インクジェットプリント(アーカイバルピグメントプリント)、数万色を使って印刷する技術として1980年代に登場しました。
ジクレー又はジークレーとも呼ばれています。
ジクレー(giclee)とは、フランス語で〝吹き付ける〟という意味をもった言葉から発した印刷方法です。現在パソコンを使い制作されるデジタル版画はヨーロッパやアメリカでは一般的であり、芸術表現として広範囲に普及しています。